大規模修繕工事における「不適切コンサルタント」の存在をご存じですか。
20年近く活動をしてきたAAIでも、対応が急務と考えている「不適切コンサルタント」問題。
不正な工事や割高な費用などがマスコミでも取り上げられ、国土交通省からも通達が出されています。
「不適切コンサルタント」が提示するコンサルタント費用は破格に安く、費用が節約できるように思わせます。しかし、実際は工事業者に高い工事費で請け負わせ、そこからリベ ートを受け取っています。
工事業者は「不適切コンサルタント」に支払うリベートぶんを捻出するため、工事費用を上乗せしたり、不必要な工事を設定したりすることも。そのため、マンション管理組合が支払う総費用は割高になります。
「不適切コンサルタント」は、設計や工事監理を工事業者に任せきりにする場合が多く手抜き工事にもつながります。結果的に、マンションの資産価値を維持することも難しくなってしまいます。
もともと、ほとんどすべての大規模修繕工事は、「マンション管理会社」に任せる責任施工方式で行っていました。
管理組合は施工業者が選べずマンション管理会社が選んだ業者を信用するしかありませんでしたが、良質なマンション管理会社であれば何の問題もなく、管理組合の手間は大幅に省ける上、工事後に瑕疵があった場合も安心の「アフター保証」が得られました。
しかし、管理会社が悪質だった場合、割高な費用、不適切な大規模修繕工事が行われても、専門家でない管理組合はそれに気づくことが難しいのが現状でした。
その後、管理組合が工事施工会社と直接契約する方式が主流になると、工事費用は安くなる反面、管理会社の業務を管理組合が担うことになって、組合員の負担が増加しました。また、悪質な施工業者によって、割高な費用や不適切な大規模修繕工事を行う事例がおきました。
このような問題を解決するために、昨今では設計コンサルタントを依頼する設計監理方式が多く選択されるようになっています。
設計監理方式は、第三者の設計コンサルタントが専門知識のない管理組合を支援し、住民にとってよりよい工事を提供するのを目的とし、コンサルタントはマンションの建物診断、住民へのヒアリングなどから必要と思われる修繕工事の設計を行います。
第三者の目が入ることにより不正が発生しにくく、複数の施工会社が設計に基づいて競争入札をすることで、ベストな施工会社の選定を可能にします。
しかし、昨今、この設計監理方式も「不適切コンサルタント」という問題が起こっています。
不適切コンサルタントは、格安のコンサル料を餌に、住民と契約します。その後、施工業者に見積もり依頼し、入札で安い業者を選んだように見せかけます。
その際、必要ない工事を増やすことによって工事費用が高くなるように操作し、条件をつけることによって入札に参加できる会社はコンサルタントと裏で手を組んだ業者のみになり、施工会社は持ち回りで決定されてしまいます。
【1】
格安のコンサル料で管理組合(住民)と契約。
【2】
入札で安い業者を選んだように見せかける。
【3】
契約した業者からバックマージンをもらう。
マンションの劣化を防ぐ大規模修繕工事のための積立金が悪質な設計コンサルティング会社に狙われている。工事会社に談合まがいの行為を促し、割高で受注した業者からバックマージンを受け取る――。住民側に立つべき会社が水面下で管理組合の資産を食い物にしているのだ。悪質コンサルの横行はマンションの資産価値の低下を招く。
リベートを受け取るコンサルタントは、質の悪い施工業者に受注させたり、工事のチェックを手加減したりする恐れがある。結果的にマンション所有者の負担が増すだけでなく、横行すればまともなコンサルや施工業者が減ってしまう。
出典 毎日新聞
「日経新聞」2018年12月1日号では、マンションの大規模修繕における悪質コンサルタントを調査した記事「狙われるマンション積立金 修繕で悪質コンサル横行 」が掲載されました。
悪質コンサルタントが修繕工事に関係すると、相場より高い工事金額で受注することになり、マンションの資産価値の低下を招くと説明されています。
記事では、悪質コンサルタントのやり口を紹介しています。悪質コンサルタントは極端に安値のコンサル費を提示して競合コンサルを退けてしまい、その後、関係の深い工事会社が工事を受注するように誘導すると紹介されていました。
このようなコンサルタントの行為は法抵触の可能性がありますが、証明して立件するのは非常に難しいそうです。
「週刊ダイヤモンド」2017年2月4日号では、マンションの大規模修繕における業者間での談合やリベートについて調査した記事「業者にだまされないマンション管理と大規模修繕」が掲載されました。
大規模修繕工事を取り仕切るマンション管理会社が工事業者に対して「工事の受注を希望するなら、見積金額を出すだけでなく、複数の工事業者で金額を合わせる」という談合への参加を呼び掛け、受注した業者にはリベートを要求するといった実態などが紹介されています。
住民を代表して工事を発注する管理組合は、こうした談合やリベートの存在を知ることは、ほとんどありません。悪質な事例として、あるリゾートマンションでは普段から住民がほとんどいないこともあって関心が薄く、管理会社が大規模修繕の工事費の半分をリベートにしてしまった例も挙げられています。
平成28年11月に、一般社団法人マンションリフォーム技術協会という改修技術者の団体が機関紙 martaのなかで、この問題を放置することによって管理組合に割高な工事費という実害を与え、業界全体が信頼を失うことになると訴えています。
業界内からの問題提起ということで、関係者のなかで話題になりました。
週刊誌や新聞などで報道されたり、事態を重く見た国が注意喚起を行うなど、「不適切コンサルタントの問題」はだんだん周知されてきているようですが、管理組合の皆さまのお話を伺うとまだまだ一般には大きく広まっていないのが実感で、住民の方々には、修繕工事に関して無関心な方が少なからず存在します。
大規模修繕を控えた管理組合がリベートを排除する策はないか。松田弁護士が私見を語る。
「契約書で『リベートは取らない』と約定すべき。リベートを取ったら、その2倍の違約金を払うなど特約条項を入れればいい。まじめなコンサルは痛くもかゆくもない。怒るコンサルはやましいからでしょう」
出典 AERA dot
適切な工事監理を行う設計コンサルの代金は高めだが、談合をさせず、工事費用を適切に抑えて、トータルで管理組合の負担を減らすことを目指す。こうした設計コンサルを見つける努力を怠ると痛い目に遭う。
一度自分の手から離れてしまった積立金は、「自分のお金」「自分の財産」という当事者意識が弱くなりがちです。
また管理組合の理事長、理事の方々は忙しい日々の合間をぬって手弁当で任に当たっておられるため、ちょっとおかしいなと思うことがあっても見過ごしがちになってしまいます。
次の工事が十数年先という大規模修繕工事の性格上、管理組合内でのノウハウの蓄積や、大規模修繕工事を経験した他のマンションからのノウハウの伝達も難しく、専門知識のない住民としては専門家にすべて任せてしまいたくなるでしょう。しかし、他人任せでは問題に気づくことができません。
一人一人が他人事と思わずに、当事者意識をもって大規模修繕にあたることが、満足のいく大規模修繕になり、結果的にトラブルから身を守ることになると思います。
大規模修繕工事が進行中でも、何かおかしいと思ったら声を上げること、そして、とにかくどこか信頼のおける機関に相談をしてみてください。
国土交通省が相談窓口を設置しています。
大規模修繕の疑問や相談は、公的な専用窓口へ連絡することをお勧めします。
適切な工事監理を行う設計コンサルタントは費用が高めになりますが、トータルで管理組合の負担を減らすことを目指しています。こうした誠実な設計コンサルタントを見つける努力が大切です。
大規模修繕の実績数が豊富であり、コンサルタントが管理組合の運営も理解していることが大切です。理事会や管理会社の対応を見守り、適切なアドバイスや解決策を提示してくれるコンサルタントを選びましょう。
すべての工事会社、ディベロッパー、管理会社との利害関係が一切ないことが重要です。
改修工事は、新築工事とは全く違う知識が必要です。
長期修繕計画の策定や建物調査・診断、改修設計など、建物に関する技術的な問題に対応できることが重要です。
コンサルタントの実績を確認し、お住まいのマンションと同規模程度の工事の実績があるかや、内容を確認することをお勧めします。
有資格者が多数在籍し、対応力があることが大切です。
建物診断や改修設計、仕様書の作成、工事監理などのコンサルタントの主な業務を外注に頼らず行える会社を選ぶことにより、対応が早くなり余計なコストがかかりません。
また、プロの立場からのさまざまなアドバイスがあり、素人である管理組合に対して丁寧にわかりやすく説明してくれる会社を選ぶことも大切です。
施工業者の選定は、大きなお金が動くため管理組合内でトラブルが発生しやすくなります。
選定において施工業者を客観的に、かつ的確にアドバイスできるコンサルタントを選ぶと、トラブル回避につながります。
管理組合と施工業者を結ぶ公平な窓口になりコンサルタントを選ぶことが大切です。
マンションのことを親身になって考え、管理組合とのコミュニケーションを大切にしながら一緒に取り組んでくれる姿勢を見極めることも必要です。
一部のコンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態が発生している。
出典 国土交通省「設計コンサルタントを活用したマンション大規模」(PDF:130KB)